真宗興正派 本山 興正寺

真宗教団連合発行の法語カレンダー、ご覧になったことがありますでしょうか?
毎月一つの法語から真宗興正派・本山布教使の方々にお話を頂く今月の法話です。

合  掌


 平成26年11月10日、国民的俳優であった高倉健さんが83歳で死去されました。生前に高倉健さんが大事にされていた座右の銘は、

  往く道は、精進にして、忍びて終わり悔いなし

という言葉でした。
 この座右の銘は、平成25年9月に亡くなられた天台宗の僧侶で、比叡山延暦寺千日回峰行を2度も満行された酒井雄哉大阿闍梨が贈った言葉だそうです。
 千日回峰行とは、真言を唱えながら、比叡山東塔、西塔、横川、日吉大社などおよそ250か所を礼拝しながら、1日約30kmの山道を駆け、7年かけて通算千日の間行われる荒行です。酒井雄哉大阿闍梨は、この荒行を2度も満行しておられます。
 酒井大阿闍梨から送られた高倉健さんの座右の銘は、もともと『仏説無量寿経』の「讃仏偈」に出てくる言葉です。讃仏偈は、阿弥陀仏が仏になる前の法蔵菩薩であった時、師仏であった世自在王仏の教えを聞かれ、自らも仏になろうと決意された讃偈です。
 その讃仏偈の最後には、法蔵菩薩の決意が述べられています。

 仮令身止 諸苦毒中(たとひ身をもろもろの苦毒のうちに止くとも)
 我行精進 忍終不悔(わが行、精進にして、忍びてつひに悔いじ)

 たとえどんな苦難にこの身を沈めても、さとりを求めて耐え忍び、
 修行に励んで決して悔いることはない。『浄土真宗聖典 現代語訳版』


 「たといこの身を、どんな苦しみや毒の中に留め置いたとしても、それによって救われてくれる者がいるならば、私はその苦しみを引き受け、耐え忍んで、決して後悔はしません」といわれる。すさまじいほどの決意の言葉です。

 酒井大阿闍梨は、この讃仏偈の一節を引用して、高倉健さんに贈ったそうです。この座右の銘に背中を押されて「南極物語」の出演を決意したと伝えられています。
 酒井大阿闍梨は、高倉健さんのことを次のように随想しておられます。

 自分に課せられた人生。仏様からいただいた人生を、「これだけ燃えつきました」
 高倉健はそう言って逝ける、数少ないお人やと思います。
                   「健さんのこと」(高倉健『旅の途中で』所収)


 一日一日、一瞬一瞬を燃え尽きて生き抜く。それは、「今日の、いまの私のいのちをしっかりと受け止めていく」という世界からこそ開かれてくるのではないでしょうか。「往く道」とは、いのちを成就していく道でもあり、人間を成就していく道とも言えます。
 死んで往ける道は そのまま生きてゆく道です。

 今月の法語にある「死んで往ける道」。それは、いのちを成就して往く道を教えて下さっています。いのちを成就して初めて「生きてゆく世界」が開かれてくるのです。
 親鸞聖人は御和讃の中で次のようにお示し下さいました。


  本願力にあひぬれば むなしくすぐるひとぞなき
     功徳の宝海みちみちて 煩悩の濁水へだてなし
                  『高僧和讃』天親讃


 親鸞聖人は、阿弥陀如来の願いに出遇ったならば、一瞬一瞬を燃え尽きて生き抜くいのちに恵まれると教えて下さいます。阿弥陀如来のご本願を通して、「死んで往ける道」を歩ませて頂きたいと思います。


合 掌



本山布教使 岡本正光
(兵庫県 親光寺)

                            

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