ご門主のお言葉
令和元年報恩講 ご親教
本日は本山興正寺報恩講にようこそお参りくださいました。親鸞聖人の九十年のご生涯を偲ばせていただきながら、皆さまとともにお念仏を申させていただくこと、誠にありがたく嬉しく思います。
本山では、昨年の災害による被害調査も終わり、本山の修復に向けていよいよスタートいたしました。しかしながら、未だに御影堂への参拝ができず、多くの皆さまにご迷惑、ご不便をお掛けしておりますこと、心よりお詫び申し上げます。今後、皆さまにも一層のご支援・ご協力をお願いすることと思いますが、何とぞよろしくお願いたします。
さて、親鸞聖人は「正信偈」の中で、
如来、世に興出(こうしゅつ)したまふゆゑは、ただ弥陀の本願海を説かんとなり。
五濁悪時の群生海、如来如実の言(みこと)を信ずべし。
と、記しておられます。お釈迦さまがお出ましになった理由は、阿弥陀さまのご本願を説くためです。五つの濁りのある時代に生きる人々は、お釈迦さまがお説きになった真実のみ教え、阿弥陀さまのご本願を信じるべきです、と親鸞聖人はお示しくださいました。
この五つの濁りの中に、「劫濁(こうじょく)」というものがあります。それは「時代の濁り」という意味です。
現代社会を見てみますと、便利なものであふれかえり、私たちは、その便利さを享受しています。しかし、私たちは、すでにある便利なものに飽き足らず、速いスピードで、次から次へと、便利なものを生み出し続けています。このスピードは、段々と速度を増してきているように感じられます。
私たちは、この時代のスピードに取り残されないために、必死になって、あくせくと日々を送っているのではないでしょうか。また、世の中の急激な変化についていくことができず、取り残されてしまう人々も少なくないのではないでしょうか。
一見すると便利な世の中ですが、気ぜわしく、自分のことしか考えられず、取り残されたものに目を向けられなくなってしまう。そのような時代の濁りがあるように思えてなりません。
真宗興正派では、宗祖親鸞聖人御誕生八百五十年・立教開宗八百年慶讃法要に向けて、「今こそお念仏―つなごうふれあいの輪」を教化スローガンとし、親鸞聖人のお念仏のみ教えを多くの人々に伝えていく運動として「興隆正法(こうりゅうしょうぼう)運動」を展開しています。
「今こそお念仏」とは、速いスピードの時代を自己中心的に生きる「私こそお念仏」に出遇う身であつたという気づき、頷きの言葉です。
これまで私たちは、気ぜわしい毎日の中にあっても、お仏壇の前に家族が集い、「ふれあう」中で、お念仏を申す時間を大切にしてきました。子供から大人までお寺に集い、お念仏を通して地域の輪を大切にしてきました。
現代社会の気ぜわしい時代に生きる私たちです。この度の報恩講のご縁を通して、「今こそお念仏」の歩みを再確認させていただきながら、「ふれあいの輪」をつなげてまいりたいと思います。
本日はようこそご参拝くださいました。
平成30年報恩講 ご親教
今年は、集中豪雨、地震、台風と立て続けに自然災害が起こり、日本列島は各地で甚大な被害を受け、多くの尊いいのちが失われました。心より哀悼の意を表(ひょう)しますとともに、被害に遭われましたみなさまにお見舞い申し上げ、一日も早く復興されますことを念願しております。
興正寺におきましても、六月の大阪府北部地震、九月の台風の影響で大きな被害を受けました。特に御影堂や阿弥陀堂、表対面所の損傷が大きく、現在、被害状況を調査し、対応しているところです。
そのため今年の宗祖親鸞聖人報恩講は、参拝者の受付けを中止して内勤めで厳修(ごんしゅ)することになり、親教も動画配信という形でお伝えすることになりました。多くのみなさまにご迷惑、ご不便(ふべん)をお掛けいたしますこと心よりお詫び申し上げます。
さて仏教には「諸行無常(しょぎょうむじょう)」という言葉があります。私たちの生きる世界は、絶えず変化し続け、永遠不変(えいえんふへん)なるものは何一つない、という意味です。
この諸行無常ということを頭で理解することはできますが、なかなか受け入れることが出来ません。受け入れられないため、ここに「苦悩(くのう)」や「不満」、「怒り」が生まれます。また「不安」や「悲しみ」が生まれるのです。このような自己中心的で愚かな相(すがた)を親鸞聖人は「煩悩具足(ぼんのうぐそく)の凡夫(ぼんぶ)」とお示しくださいました。
親鸞聖人は「煩悩具足の凡夫」を憐れみ、見捨てず、必ず救うという阿弥陀如来の願いに出遇われました。
報恩講は、親鸞聖人がお伝えくださったお念仏に出遇えた慶(よろこ)びと、感謝の想(おも)いをこめ、そのご恩に報いる法要です。報恩講をご縁として、お念仏のみ教えを今一度お味わい致しましょう。
ただいま真宗興正派では、「今こそお念仏―つなごうふれあいの輪」を教化(きょうか)スローガンとし、親鸞聖人のお念仏のみ教えを多くの人々に伝えていく運動として「興隆正法運動」を展開しています。
教化スローガンの「今こそお念仏」とは、今を生きる「私こそお念仏」に出遇う身であったという気づき、頷きの言葉です。親鸞聖人は、阿弥陀如来が「十方衆生(じっぽうしゅじょう)」を必ず救うと呼びかけてくださったご本願を、「親鸞一人(いちにん)がためなりけり」と受け止めていかれました。それは、煩悩具足の「私こそお念仏」に出遇う身であったという自覚の歩みです。私たち、「十方衆生」を救うと誓われた阿弥陀如来のご本願の世界、すなわち「みな共に歩みゆく世界」が開かれていくのです。お念仏の歩みを通して、「ふれあいの輪」が生まれ、「つながり」あう世界が育まれていくことを教えてくださっているのです。
さまざまな現代社会の「苦悩」の中で生きる私たちです。この度の報恩講のご縁を通して、「今こそお念仏」の歩みを共々に再確認して参りたいと思います。